■患者さんの訴え
「右下の歯が腫れた」との訴えでした。
■治療内容
右下第一大臼歯の遠心根が割れていて保存不可能。骨の量は十分あるためインプラントでの機能回復も可能であったが状態の良い近心根(前方、レントゲンで右の根)を割れていた遠心根部へ移植しブリッジにて機能回復を図った。
■治療経過所見
元々第二大臼歯がなかった患者さんであったがこの第一大臼歯が失われれば保険診療では入れ歯治療しか方法がない。当時患者さんは50代半ばであったが現在70歳を過ぎている。仮にこの移植した歯が今後残せなくなり抜歯することになっても50代で入れ歯になるのと70歳を超えて入れ歯になるのでは大違いではないだろうか。15年経過した現在も全く問題なく機能している。
この症例は私が歯科医師になって初めて移植した症例である。歯科医師になって4年目にインプラントのセミナーを受けに新潟まで通ったのだが1番最初の講義が歯牙移植の講義(国立市開業下地先生)であった。大きな衝撃を受けインプラントよりもずっと熱心に移植治療に取り組むことになった。
病院歯科口腔外科にて初期研修を受けていたので手技は難しく感じなかったが「はたしてこの歯が長持ちしてくれるのだろうか?」と強く思ったことを記憶している。
経過は大変良好で積極的に歯牙移植治療に取り組むきっかけになった思い入れの強い1本の歯牙移植の症例である。
■備考
将来的にアンキローシス(骨性癒着)・外部吸収・歯根破折が起きる可能性があります。
上顎臼歯部では、上顎洞が近接している場合には適応外となる場合もあります。
上顎への移植は術後に上顎洞炎が起きるリスクがあります。
親知らずの形態はCTにより術前に確認いたしますが歯根形態によっては手術中断の可能性があります。
一部付着が得られない場合は部分的に歯周ポケットが深くなる可能性があります。
清掃しにくい場合には、補綴治療によって改善が必要になります。
喫煙は歯肉の血流を阻害し、失敗のリスクが上がるため禁煙を勧めております。